平成19年度は、平成18年度までに作成を進めてきた日本医薬品企業の海外拠点、米国特許、発明者に関するデータベース、およびヒアリング調査の結果に基づき、いくつかの実証的分析を行った。 まず、日本医薬品企業の研究開発機能の国際化と投資受入国に内在する技術の獲得の関係性について、実証的分析を試みた。1975年から2005年までの日本製薬企業38社とその全米国特許8746件を用いた分析の結果、研究開発機能の対外直接投資が国境という技術スピルオーバーの地理的範囲の制限を乗り越える手段として機能し得ること、そして投資受入国の現地研究者の取込がその関係性を部分的に媒介することが明らかになった。さらに、本国よりも技術的に優れた投資受入国に内在する技術を活用する研究成果ほど、その価値が高まることが示された。この研究成果は『国際ビジネス研究学会年報2007年』に掲載され、国際ビジネス研究学会優秀論文賞を受賞している。 また、上述の研究に残された課題の一つは、企業の海外研究開発拠点による技術的成果が、企業内の他研究開発拠点に移転・普及される前提条件を明らかにすることであると考えられた。そこで、研究者間の持続的な社会的ネットワークの概念に着眼し、企業の海外研究開発拠点の成果が、本国研究開発拠点において活用される前提条件について、分析を試みた。その結果、海外研究開発拠点の研究者による本国研究開発拠点との共同研究開発経験、および本国研究開発拠点からの移動経験が、同研究者の研究成果の本国研究開発拠点による活用を促進することが統計的に明らかにされた。ただし、共同研究開発経験や拠点間移動によって代理された研究者間の社会的ネットワークが技術の普及を促進する程度は、技術分野の科学論文との関係性という知識の形式化の程度によって異なることも示された。この内容に基づき、「国際ビジネス研究学会(2007年10月28日)」にて学会報告を行った。
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