本研究は、日本と米国の大企業を対象とした事例調査から、業績管理と報酬管理の連動性に関する国際比較分析のフレームワークを抽出しようとするものである。平成19年度は本研究課題の最終年度にあたることから、文献レビューやフォローアップ調査などを終え、最終成果の取りまとめに着手した。具体的には、本研究から得られた知見を活用したMiyamoto and Higuchi(2007)や、本研究の調査報告書である樋口(2007)を刊行した(以下の「11.研究発表」欄を参照)。なお、後者の業績については、学術論文等のかたちで今後さらに発展させる予定である。 本研究から得られた事実発見と含意は、次のとおりである。近年のアメリカ企業では、組織の戦略目標を実現するための職務行動や能力開発を促すという目的から、等級制度、賃金制度、評価制度などの適切な設計と運用が模索されている。それは、外部労働市場に強く規定されてきた伝統的な等級制度の構造を、実質的な能力や責任の大きさにもとづいて再編するという動き、業績目標の達成度と能力の開発指標とがよくバランスした評価の仕組みを構築するという動き、そして、安定性の高い基本給と業績指向性の強い変動給とをバランスした賃金の仕組みを構築するという動きに表れている。こうした変化の方向性は、我が国企業における報酬管理の成果主義化と軌を一にするものである。すなわち、本研究の事実発見は、限られた事例調査によるものとはいえ、業績管理というコンセプトにもとづいた日米企業の報酬制度の収斂という興味深い動きを展望させるものと言える。同時に、今回得られた知見は、グローバルなオペレーションの中での人的資源管理が、国別ないしは産業別の規定性を受けながらいかに展開されてゆくのかという今後の発展的な課題につながっている。
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