研究概要 |
1.「習慣形成と消費性向」 ケインズの指摘以降,「消費性向は消費習慣に依存する」ということは広く認識されてきた.しかし,それは暗黙的な理解にとどまり,厳密な理論的裏付けを得ていなかった.そこで本稿は,合理的に消費習慣を形成する個人を考慮した簡便な一般均衡モデルを構築し,消費習慣と消費性向との動学的関係を明らかにした.特に,消費の忍耐度を表す純時間選好率の概念を導入し,内生的な純時間選好率の変化が消費性向の動向を決定付けることを発見した.その結果,Carroll(2000)とPagano(2004)の指摘の背景には,経済成長期には「現在の低い消費習慣が,現在の純時間選好率を押し下げ,それにより現在の消費性向は低く抑えられる」というメカニズムが働いていたことが判明した.また逆に,景気後退期には「現在の高い消費習慣が,現在の純時間選好率を押し上げ,それにより現在の消費性向は高く保たれる」ことで,Duesenberry(1949)が指摘した「ラチェット効果」が生じることが明らかにされた.本成果は、大阪経大論集に掲載され、公刊された。 2.「The Public Debt Places no Burden on Future Generations under Demand Shortage」 「不況期において国債発行が次世代負担を招くか否か」は古くからの重要な争点であるにも関わらず厳密な理論分析は行われてこなかった。本研究は、Diamond型の世代重複経済において有効需要不足による非自発的失業が存在するならば、国債発行に伴う雇用増大が生じるために、国債発行による次世代負担は生じないことを理論的に明らかにした。本成果は2007年2月に、大阪大学社会経済研究所のセミナーにて報告され、その成果に基づき大阪大学から経済学博士号が授与された。また、本論分は現在国際的な学術雑誌へ投稿されている。
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