研究概要 |
今年度は,組織と戦略との相互作用について,まず収益性の低迷に苦しんでいる企業が,その低迷から脱却するべく様々な戦略転換や組織変革を実施しているにもかかわらず,その低迷「構造」から抜け出すことができない「再生産」メカニズムを,企業の製品戦略を分析し,その背景要因を考察した. これまでの研究調査から,業界全体として成長局面を迎えている日本の造船業には,高い経済成果をあげている企業と,必ずしも十分な経済成果を達成していない企業の両方が混在しており,このような業績格差を生み出す要因として,各社の製品戦略の違い,具体的には,現在の日本の造船業では「製品差別化」戦略よりも「コスト・リーダーシップ」戦略の方が収益性に有効であることを実証した. 次に「コスト・リーダーシップ」戦略を採用しているのは,主に企業規模の小さい「中手」と呼ばれる企業群であるのに対して,「製品差別化」戦略を採用しているのが,規模が大きく,技術力が高い,資金力の豊富な「大手」と呼ばれる企業群であることを指摘し,規模が大きく,技術力も高く,資金力が豊富である「大手」企業は業績不振にもかかわらず,なぜ戦略転換しないのかという点について更なる調査を進めた. この結果,「大手」企業は,(1)他の事業部との活動の共有度が高く,(2)全社に占める造船事業の比率が低いために,「中手」企業に見られるような大胆な投資ができず,また他の事業部を意識した製品の製造から撤退できないことが明らかとなった. この調査結果より,「全社戦略(とりわけ,多角化によるシナジー効果の追求)」は,「事業戦略」の戦略不全を引き起こすことがあり,通常の教科書においては,「全社戦略」と「事業戦略」は分けて考えられているが,実は両者は不可分なものであり,両者は同時に考慮しなければならないことが示唆された. なおこの調査結果は,平成19年3月に岡山大学で開かれた研究会で発表され,平成19年度中に雑誌論文に発表される予定である.
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