本年度の研究計画の主要な目的は、企業間でのマテリアルフローコスト会計情報共有の程度と改善活動との関係を明らかにするために、資料収集および日本企業の調査に取り組むことであった。 調査対象企業のひとつである田辺製薬と関連会社である田辺製薬吉城工場(株)のケースでは、マテリアルフローコスト会計をERPシステムであるSAPR/3と関係付けており、吉城工場(株)のマテリアルフローコスト会計情報はすべて田辺製薬が把握していた。そして田辺製薬と吉城工場(株)が共同でマテリアルロスの改善活動に取り組んでいた。しかし、マテリアルフローコスト会計には投入材料とその単価といった企業機密に類する情報が含まれるため、企業間の関係によって情報共有の形は変化すると考えられる。 そこで、もうひとつの調査対象企業であるキヤノンをみると、キヤノンは自社の工場と、これまで長期取引関係を築いてきた関係会社であるA社に対してマテリアルフローコスト会計を導入した。この両者は、キヤノンがA社株式の10%程度を保有するという資本関係にある。こうした関係の両者の間でのマテリアルフローコスト会計情報の共有は物量情報のみであったが、共同での改善活動が導かれている。つまり、従来マテリアルフローコスト会計の特長のひとつとしてマテリアルロスを貨幣評価することによって改善活動の費用対効果を考慮した意思決定が可能になることが強調されてきたが、マテリアルフローコスト会計をサプライチェーンへと拡張し、サプライチェーンのマテリアルフローを一貫して捉えることで、物量情報のみの共有であったとしても共同での改善活動を導くことが可能となることがケーススタディより明らかとなった。
|