本研究では、原子力発電所、基地、廃棄物処分場など、施設そのものの社会的必要性は認めつつも、立地点の当事者にとって迷惑と感じられる施設をめぐる当事者間の合意形成に焦点をあてる。なかでも、産廃処分場の立地をめぐる問題に注目し、いずれも特徴的な地域における環境紛争を取り上げ、合意形成のプロセスについての実態調査をおこない、その分析を通して、参加型民主主義における公益性とはなにか、公益性と私権との関係とその折り合いのつけ方、また、その関係における正当性/正統性の根拠とはなにかを検討することを通して、社会学が現在直面している公共性の問題に迫り、そこから新たな合意形成のあり方を示した。 「迷惑施設」と称される産廃処分場の立地をめぐる地域紛争問題を「廃棄物問題」と定義し、これを環境リスクにかかわって生成されるNIMBY(Not-In-My-Backyard)問題への社会的承認をめぐる問題として位置づけた。そして、廃棄物問題をテーマに掲げる環境紛争と合意に関する社会学的研究という主題を構成することによって、ノイズを排除し徹底的に合理的なコミュニケーションをとったり、ローカル・ポリティクスのなかで住民運動を動員し反対政治を組織したりすることによって問題解決の突破口を見出そうとするのではなく、それぞれの地域におけるプロセスや構造的な制約をあきらかにすることによって、多元的で地域固有な合意形成の可能性をあきらかにした。 そして、施設を作る側の「公共の正義」と受け入れる側の「迷惑」とが交差するその状況の表象こそがNIMBYであり、それ自体が、迷惑施設を作る/受け入れるという関係のなかで生じるさまざまな問題を互いが承認するための糸口となりうることを住民世界の実相から示しながら、それが、生活世界の存在根拠と連動する合意形成ともいうべきオルタナティブであることをの可能性を示した。
|