研究概要 |
1.研究目的 本年度の研究調査では,平成18年度交付申請書の記載した第一目的および第二目的の一部について検討した。その目的とは,(1)13〜30ヶ月の乳幼児が自他の好みや,(2)所有意識・知覚状態の違いが示される状況でどのような応答パターンを示すかということ,(3)そうした反応パターンの個人差が自己意識や自他分化によってどのような影響を受けているかということである。 2.研究方法 生後12〜35ヶ月の子どもとその保護者70組が調査に参加し,学外施設の個室内で母子の心身に負担にならないための予防と対応に配慮して調査を行った。課題と手続きは平成18年度交付申請書に示すとおりである。反応の測定は申請書記載から若干変更し,特に子どもの反応を測定した。 3.研究成果 (1)Toy-request場面において,大人のポジティヴな情動表出よりもネガティブな情動表出に対する子どもの要求応答のパターンが発達的に有意に異なっていた。他者のポジティヴな情動表出よりもネガティブな情動表出のほうが,乳幼児期の他者欲求推測の手がかりになりやすいことが示唆された。しかし,他者欲求理解の発達プロセスに関して,先行研究から予想される結果を得ることができなかった。今後,子どもの月齢,注意コントロール,場面の手続きなどを巧みに統制する必要がある。 (2)他者の悲しみ場面や他者の困惑場面における多種の反応について月齢差を検討したが,特に有意な結果は得られなかった。 (3)他者の悲しみ場面では,自他の所有意識の違いを理解している子どもは確認や援助行動を示しやすいことや,自己鏡像認知の成立している子どもは確認行動を示しやすいことが明らかになった。これらの結果から,単に月齢の増大ではなく自己意識や自他分化といった認知能力の発達が確認や援助行動の発達に寄与している可能性が示唆された。他者の困惑場面では特に自己鏡像認知は関連しなかった。
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