平成18年度は10月に生じたタイのクーデター発生のため、渡航許可がなかなかおりなかったことなどから、(1)当研究課題「少数集団の紛争処理制度の研究」に必要な政府資料分析を中心とした先行研究の調査、(2)現地NGOの協力により得られたデータの解析を行った。 (1)タイ法制史・政治史をめぐる政府資料の研究については、それが民主化運動との関連の中で取り扱われることが多かったが、山地少数民族の立場から論じているものが非常に少なく、少数民族からみたタイ法制史・政治史という形で、タイ法制史を再構築することができた。加えて、王室プロジェクトによる山地民の権利保護体制が1990年代になるまで、取り扱われていなかったことも新たな発見として加えることができた。この研究成果については平成18年11月に日本大学法学部で開催されたアジア法学会研究大会において、「少数民族の紛争処理-モン族を事例として-」というタイトルで成果の一部を発表した。 (2)NGOの協力により得られたデータは、i)モン族の法意識を調べるために重要と思われるモン族の改名データ、ii)モン族・カレン族における自動車車検証取得のデータ、の二つである。 i)のデータからは、3つの村(500世帯)においてモン族が旧来の伝統的な名前を捨てて、タイ風の名前に変えた現状を調べた。その結果、研究対象地域の母相と分村では、分村の方ほど改名率が高く、加えて分村ほど伝統的な村長の仲裁によるモン族の紛争処理制度を利用することなくタイの法制度を利用する意向が強いことが判明した(これは統計的に優位な数字として表れた)。加えて、ii)のデータ解析により、カレン族よりもモン族の方が自動車取得に端的に表れる近代タイの経済制度への融合性が高いことも判明し、タイ近代法制度の利用を志向するモン族の背景には経済的なネットワークを広く展開するモン族の特性が見いだされることがわかった。
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