本研究は発展途上国における地域開発計画において、少数集団の意志反映が十分に可能である法制度の構築について研究を行った。 近代化政策を押し進める発展途上国では、政府主導による地域開発が実施される一方で、それらの開発を原因とする環境破壊や生活環境の破壊といった先住民族・少数民族への権利侵害が多々生じている。だが開発による権利侵害が社会問題として認識されるには、(1)被害者間で権利侵害が行われていることが認知され、(2)被害者間で運動体が組織され、(3)社会の他の成員に対してアピールされていく、というプロセスが必要となるが、実はこれらのプロセスのそれぞれの局面において人々には多くのリテラシーとコストが要求されるため、深刻な権利侵害が発生していながらも開発側も住民側もそれを認識できず、また発言する機会を失っていることが多々ある。少数民族の権利意識とその表出に関わる研究は、それがこと人権に関わる問題であるばかりでなく日本のODAの見直しなどの立場からいっても早急に対処すべき課題であるといえる。 そこで申請者は19世紀以降タイに移住し定住するに至ったモン族が、タイの近代法制度に依拠しない紛争処理制度の利用実態を調査した。具体的にはタイ山地民モン族の紛争処理について現地フィールドワークとアンケート調査を並行的に進め、少数民族独自の慣習法とタイの法規範が衝突した場合にどのように処理を行うか2つの村を中心にデータをとった。 本研究の成果として、他地域の開発においても伝統文化に基づいた紛争処理手段を持つ少数民族が近代国家の中で生活するにあたり自らの法規範と国内法との適合をはかり、自らの紛争処理能力を高めるような開発政策へ多く提言ができると考える。
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