本研究の目的は、超対称性理論/超重力理論の予言する粒子「グラビティーノ」を軸に、標準模型を超える物理・新しい物理を開拓していく事である。標準模型を超える物理の候補として特に広く考えられているのが超対称性理論/超重力理論である。通常の大局的対称性を局所的対称性に拡張する際にゲージボソンの導入が不可欠なように、超対称性理論を超重力理論に拡張する際には局所的な超対称性変換を吸収するフェルミオンの導入が不可欠になる。このフェルミオンが、本研究の主役「グラビティーノ」である。したがってグラビティーノは、超対称性理論・超重力理論の鍵を握る基本的粒子と言える。 平成18年度の研究業績は以下の通りである。 1.コライダー実験におけるグラビティーノに関する研究を行った。 交付申請書に述べたように、グラビティーノが最も軽い超対称性粒子(LSP)である場合に、コライダー実験における長寿命荷電スレプトンの収集・解析が極めて重要である。そこでLHCにおける具体的なセットアップについて、主検出器の周りに重い物質(ストッパー)を置いて長寿命荷電スレプトンを収集する可能性について研究し、論文にまとめた。 2.グラビティーノの存在が初期宇宙論に与える影響について研究した。 (1)超重力理論・超弦理論に現れるモジュライと呼ばれる粒子の崩壊について詳しく解析し、モジュライの崩壊によってグラビティーノが(それまで考えられていたよりはるかに)多く生成される事を示した。この研究によりモジュライ問題がそれまで考えられていた以上に非常に深刻な問題である事が分かり、超対称性理論の模型構築および初期宇宙論の分野で大きなインパクトを与えた。(最初の論文Physical Review Letters 96(2006)211301は発表後2年間で引用回数が50近くに達している。) (2)グラビティーノが最も軽い超対称性粒子(LSP)である場合に、初期宇宙におけるNLSP(LSPの次に軽い超対称性粒子)の崩壊によりビッグバン元素合成の成功が損なわれてしまう問題が知られている。この問題が、(i)エントロピー生成があれば解決する事(ii)R-parityが破れていれば解決する事を具体的に示し、それぞれ論文にまとめた。 3.また研究成果についても国際研究会・国内研究会で積極的に発表を行った。
|