太古代と原生代の境界にあたる25-20億年前には、地球進化における最大規模の表層環境の変動があったことが知られている。この時代には、太古代のメタンを含む還元的な大気組成が、原生代以後の酸素を含む酸化的な組成へと変わり、また同時期に、大規模氷河期が繰り返し生じたことが示されている。しかしながら、このような大気組成の進化と気候変動の間にどのような因果関係があったのか、還元的大気をもつ天体の地表環境や物資循環はどのように成り立っているのか、といった詳細に関しては、ほとんどわかっていない。 本研究では、室内実験と野外採取試料の分析を行い、原生代初期及び太古代の地表環境や大気進化を明らかにすることを目的とする。本年度は、カナダ・オンタリオ州で採取した約23億年前の氷河性堆積物に対して、氷河期直後のオスミウムと炭素の同位体比の高解像度分析を行った。その結果、氷河の退氷に伴い、オスミウムの酸化的風化が開始していることを明らかにした。このことは、氷河期後の温暖化への環境変動が引き金となり、その結果として大気酸素濃度の増大が引き起こされていることを示唆する。 さらに室内実験においては、土星の衛星タイタンを例に、大気中にメタンを含む還元大気をもつ天体の地峡環境の安定性を調べた。具体的には、光化学反応により、大気中でメタンから生成される有機物エアロゾルの表面反応や成長率を実験的に求め、大気-表層間の物質循環やタイタンの大気組成に果たした役割を議論した。特に、最新のカッシーニ探査機による詳細な大気組成の観測結果と、我々の実験により予想される大気組成を比較し、有機物エアロゾルの表面反応が現在の大気組成を維持する役割を果たしていることを示した。
|