ホログラフィーというゲージ理論と重力理論の関係が、どのくらい一般に適用できるか非摂動的な立場で研究するのが本研究のメインテーマである。なるべく一般の場の理論に対してホログラフィーが適用できるか調べるために、多体量子力学系で常に定義できるエンタングルメント・エントロピーという量に着目し、そのホログラフィックな記述を研究した。とくにAdS/CFTの場合は、既に研究代表者が、共形場理論のエンタングルメント・エントロピーが反ドジッター空間の最小面積から計算できることを見出しているが、マスギャップのあるより普通のゲージ理論に関してどういう結果になるかは興味深い。そこで、4次元ゲージ理論をコンパクト化して超対称性と共形対称性を破り、閉じ込めがおきている状況を考えた。その結果、エンタングルメント・エントロピーに有限の寄与が新しく生じることが自由場近似の計算でも分かり、重力側の計算とも30パーセントの(近似による)誤差で一致する。特に、ツイストしたパラメーターを入れて超対称性の破れをコントロールしたモデルでは、エンタングルメント・エントロピーのゲージ理論側と重力側の計算が定量的に一致することを確かめた。 AdS/CFT対応が、超対称性の少ない背景で、正しく成立するのかどうかは大変興味深い。そのような例として、最近、佐々木アインシュタイン多様体を用いて無限個の背景が構成された。前述にもあるが、AdS/CFTが成り立つN=4超対称性ゲージ理論では、自由場近似が半定量的に正しい結果をあたえるという顕著な性質がある。そこで、この性質が、その無限個の例でも成り立つか熱力学的エントロピーを計算して調べた。その結果として、すべてのAdS/CFTの記述を許すN=1超対称性ゲージ理論において、エントロピーがN=4超対称性ゲージ理論ととても似たような振る舞いをすることを見出した。この結果は、超対称性の少ない背景でAdS/CFT対応が正しく成り立つことを強く示唆するといえる。
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