本年度は昨年度に引き続き、エンタングルメント・エントロピーという物理量に着目して重力とゲージ理論の対応(特にAdS/CFT対応)を研究した。最大の成果は、本研究代表者がRangamaniとHubenyと協力して、時間に依存した時空でもAdS/CFTが成り立つセットアップに限定すれば、エンタングルメント・エントロピーが幾何学的な量(extremal surfaceの面積)として計算できることを見出したことである。相関関数の計算が未だに完全にはcovariantな形式で理解されていないことを考えると、物理量をcovariantにAdS/CFTの立場で対応させた初めての例ともいえる。また、その次に大きな成果は、ブラックホールのエントロピーに関するものである。ブラックホールが何故エントロピーを持つのかは、超弦理論のD-braneを用いた研究でだいぶ理解されたとは言うのものの、説明できているブラックホールは3次元の反ドジッター時空(もしくはそのオービフォールド)が地平線近傍で実現されているものに限定される。そこで、本研究代表者と畦柳と西岡は、地平線近傍で二次元の反ドジッター時空になっているブラックホールの場合に拡張してこの問題を考察した。その場合は、AdS/CFTを用いると、ブラックホールのエントロピーは、実はエンタングルメント・エントロピーとして微視的に解釈できることを見出した。この結果は、さらに未知な領域のシュワルツシルド・ブラックホールのエントロピーも同様に理解できる可能性を示唆する。それら以外の研究としては、エンタングルメント・エントロピーの強劣加法性のAdS/CFTによる証明や、物性理論でも重要なboundary entropyという量のAdS/CFTを用いた計算などを行った。
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