前年度に実施した低分子液晶と導電性高分子の相溶性の検討結果に基づき、良好な相溶性を示すチオフェン骨格の導電性高分子とネマチック液晶の混合系を使用して実験を行なった。試料をポリイミドラビング膜付きガラス配向セルに導入し、高分子の偏光吸収スペクトルを測定した。等方相では吸収スペクトルに偏光異方性がなかったのに対して、ネマチック相では、液晶ダイレクタと入射光の偏光が平行方向のときの吸光度は垂直方向よりもはるかに大きくなり、明らかな偏光異方性を示した。この結果から、液晶配向場と高分子主鎖の配向の結合により、導電性高分子の主鎖が液晶ダイレクタと平行方向に向くことが明らかになった。さらに試料を冷却していくと、高分子主鎖が配向した状態から高分子の結晶化が始まり、その結果、液晶ダイレクタと垂直な方向に巨視的に整列した1次元フィブリル構造が得られた。原子間力顕微鏡を用いてこのフィブリル構造を観察し、10nm程度の太さのナノファイバーが1次元的に配向した状態で寄り集まってできていることを確認した。液晶溶媒を用いない系でも導電性高分子ナノファイバーの作製は可能であったが、大きな異方性比を有するナノファイバーは溶液中で絡み合ってしまうため、ナノファイバーの配向を制御する手法は実現されていなかった。ナノファイバーの特徴は1次元的な導電性高分子の高次構造にあるため、機能デバイスの作製にはナノファイバーの配向を制御する方法が必要不可欠である。本研究では機能性溶媒である低分子液晶に着目し、高分子主鎖の配向を揃えた状態で高分子の結晶化を引き起こし、液晶分子の配向を利用して高分子の高次構造(ナノファイバー構造)を制御することで、巨視的なスケールで1次元的に整列した導電性高分子ナノファイバーを得る手法を確立した。この手法を応用することで、ナノファイバーの大きな異方性を活用した電気・光学素子の構築が期待できる。
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