CaSiO_3ペロヴスカイトはほぼ理想的な立方晶ペロヴスカイト構造をとるが、最近室温高圧下ではわずかに正方晶構造にひずんでいることが明らかとなった。この正方晶相は原子熱振動の非調和効果により高温下で立方晶相へ相転移すると考えられるが、高圧下での相転移境界は現在のところよくわかっていない。そこで本年度の研究では非調和固体に対する有効なシミュレーションの方法である第一原理分子動力学法をCaSiO_3ペロヴスカイト(80原子分子動力学セル)へ適用し、相転移の再現、相境界の決定を行い、マントル深部温度(2000〜2500K)での安定相の解明を試みた。その結果、100万気圧程度の圧力では、5000Kの高温でも正方晶ペロヴスカイトが安定となり、地球下部マントル全域で正方晶相が安定になることがわかった。 またMgSiO_3をはじめとする斜方ペロヴスカイト型物質の高圧相として近年報告されたCaIrO_3型構造や、BaSiO_3など大きな二価陽イオンを持つ化合物がとる六方晶ペロヴスカイト構造の、CaSiO_3ペロヴスカイトにおける安定性についても調べた。その結果、CaSiO_3においてもCaIrO_3構造への相転移が約600万気圧程度で生じること、六方晶ペロヴスカイト構造はCaSiO_3では安定化しないことがわかった。 密度汎関数法に基づく第一原理分子動力学法では、スーパーセルを用いて計算を行うため、多くの計算リソースが必要となる。本年度は第一原理定温分子動力学計算のプログラムを整備すると同時に、これを多数の温度・圧力条件で実行するために既存の並列PCクラスターを拡張し大容量高速計算システムを構築した。今後、粒子数を160原子以上に増加し分子動力学セルのサイズ効果の有無を精密に検討する予定である。
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