今年度は、主に2つの結果を得た。1つは代数曲面上のセクションを求める問題の困難性に基づく公開鍵暗号である代数曲面暗号の安全性評価であり、2つ目は格子における最短ベクトルを求める問題の困難性に基づくナップザック暗号の安全性評価についてである。前者については、2005年に提案されて以来、量子計算井が実現されても計算量的に安全であろうと期待されていた方式の1つであったが、安全性解析が十分ではなかった。今回の研究により楕円曲面を含む広いクラスの代数曲面が満たすある種の条件を仮定することにより、公開鍵と暗号文が1つ与えられるだけで非常に効率よく対応する平分を求めることが可能なこと理論と数値実験双方から示した。但し、代数曲面上のセクションを求める問題を直接解いているわけではなく、この問題が量子計算機に対する耐性を持つ期待はまだある。さらに、後者はナップザック問題への攻撃法として最も有効と考えられている、LLLやBKZと呼ぼれる格子の基底縮小アルゴリズムの中で、Sampling Reductionと呼ばれるBKZの改良アルゴリズムの数値実験を行い、その結果に基づく改良法を提案し、ある場合にはオリジナルの方式よりも高速に動くことを示した。次年度以降は、これらの問題を含む、量子計算機に基づくアルゴリズムを用いても効率よく解くことが因難であろうと期待される整数論的及び組合せ論的問題の解析を進め、新しい公開鍵暗号系の設計とその安全性解析に取り組む。上記の結果のいずれも、2007年暗号と情報セキュリティシンポジウムで「代数曲面を用いた公開鍵暗号の安全性について」(首都大学東京・徳永浩雄氏との共同研究)、「Lattice Basis Sampling ReductionによるKnapsack暗号への攻撃実験」(首都大学東京・小泉賢洋氏、NTT・宮澤俊之氏との共同研究)と題して発表を行った。
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