私の研究目的は超流動液体ヘリウムに代表される量子流体において、その乱流状態である量子乱流を数値的および理論的に解析し、そのダイナミクスと統計を明らかにすることである。私はまず量子流体のダイナミクスを記述するグロス・ピタエフスキー方程式の数値解析を行うためのコード開発を行い、また大型の数値計算機を1台購入することで、量子乱流の大規模シミュレーションをスタートさせることに成功した。 私は今年度、量子乱流の減衰ダイナミクスおよび減衰メカニズムの解明に着目し、具体的に以下の2つのシミュレーションを行った。 1、グロス・ピタエフスキー方程式で記述される単純な減衰量子乱流のシミュレーションを行い、その全量子渦糸長の時間発展のダイナミクスとエネルギースペクトルの時間変化を調べた。その結果、量子乱流中における量子渦の自己相似的な空間配置を反映した、自己相似的な量子渦の減衰過程を得ることに成功した。さらに、これはエネルギースペクトルにも反映し、座標空間における量子渦の減衰と、波数空間におけるエネルギースペクトルの減衰を直接対応づけることに成功した。またこの結果はランカスター大学で行われた極低温における超流動ヘリウム3の実験と非常に良い一致を示した。 2、量子流体において形成される巨視的量子状態からの揺らぎを記述するボゴリウボフ・ドゥ・ジャン方程式とグロス・ピタエフスキー方程式との連立数値シミュレーションを行い、量子乱流のミクロスコピックな減衰メカニズムの解明を行った。その結果、温度が上がるにつれて減衰メカニズムのスケールが大きくなってゆく様子を解明することに成功し、また有限温度の量子渦の散逸メカニズムに関して今まで現象論的に扱われていた量子渦と常流体の相互摩擦力に関する定量的な評価を行うことに成功した。
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