本研究の研究対象はGKZ超幾何線形偏微分方程式系に付随するD加群(以後Mと書く)であり、目的は大きく分けると以下の2点である。 1.Mの代数的局所コホモロジー加群の構造を組合せ論的な概念を用いて詳細に記述する。 2.元の方程式系の解空間の次元(ホロノミック次元)を、Mの代数的局所コホモロジー加群の構造と関連付ける。 今研究を通じて得られた新たな知見等: 1.に関しては、まず、残念なことがあった。それは、本研究を始める前から計算していたいくつかのデータから、Mの代数的局所コホモロジー加群の構造を予想し一度は証明を与えたのだが、本年度の10月以降性能の良いコンピュータを導入して新たにデータを収集したところ、予想に反する計算例が生じてしまい、それに伴い改めて証明を見直した結果、論理展開に不備が見つかってしまったことである。結局、既存の結果よりも新しい結果をこの半年で得ることはできなかった。しかし一方で、たびたびあった環論、表現論、計算代数関係の研究集会、学会に参加して比較的研究領域が近い研究者と意見交換をした結果、「toric ring」を一般化した「toric face ring」という環が近年研究されていることを最近知ることができた。その研究に関する文献を確認したところ、その環の代数的局所コホモロジー加群の構造、あるいはその解析法が、我々の興味対象であるMの代数的局所コホモロジー加群の構造の解析に応用できることが分かったので、19年度の研究への見通しを立てることができた。 2.に関しては、解空間の次元はMの代数的局所コホモロジー加群から決まる単体的複体のオイラー標数と密接に関係し、Mの代数的局所コホモロジー加群の構造が決定されれば解空間の次元の計算ができることまでは分かった。しかし、1.の知見のとおり、Mの代数的局所コホモロジー加群の構造についての結果がまだまとまっていないので、これ以上のことはまだ良く分からない。 以上の知見に伴い、当初予定していた学術雑誌への論文投稿を今年度中に行うことができなかった。
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