厳密にカイラル対称性を保つ格子QCD数値計算手法の開発に成功し、その詳細を定量的に明らかにした。特に、QCDの持つトポロジカルな性質を保つゲージ作用、およびフェルミオン作用の性質を詳しく調べ、この作用がトポロジカルセクターのあいまいさを理論的に排除し、かつ数値計算の大幅な速度向上に役立つことを示した。この手法は2006年3月より導入されたKEKの新しいスーパーコンピュータIBM Blue Gene Solutionおよび、HITACHI SR11000 K1を用いたQCDの大規模数値計算プロジェクト、JLQCDプロジェクトに採用され、3MeVというかつてない軽いクォークのシミュレーションを達成、内外から大きな注目を集めている(今年度中に結果を発表予定)。 この3MeVというクォークは、シミュレーションの系がイプシロン領域に達していることを示し、実際にそこからカイラル凝縮を高精度で求めることに成功した。これは、カイラル対称性が自発的に破れるという証拠を、第一原理計算によって、初めて示した画期的な成果である(Physical Review Lettersに投稿、査読中)。また、イプシロン領域での世界初のシミュレーションでもある。もう一つの課題として、2次元超対称格子ゲージ理論の数値計算に取り組んだ。この分野は理論的解析的な研究に比べて数値計算への応用は進んでいない。私たちは数値計算を実際に行うことでファインチューニングがどの程度必要なのかといった定量的問題を明らかにしたいと考えている。この研究の副産物として、2次元の質量0粒子に関する興味深い現象も詳しく調べられた。
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