1961年に南部陽一郎博士が提唱して以来、低エネルギーのQCDのふるまいにおけるカイラル対称性の自発的破れは低エネルギーハドロン物理学の理解を支える根本的支柱となっている。このカイラル対称性の自発的破れは、ハドロンの質量がパイ中間子だけが例外的に軽く、他のハドロンが1GeV付近の重い質量を持つことを、見事に説明することができる。また、パイ中間子間あるいは他のハドロンとの相互作用の強さの非自明な関係を説明できる。しかし、ハドロンを構成するクォークそのものの理論、量子色力学(QCD)において、本当にカイラル対称性は破れるのかという問いに答えることができていなかった。本研究は、世界で初めて、カイラル対称性を厳密に保つディラック演算子を用いた大規模コンピュータシミュレーションにより、カイラル対称性の自発的破れを検証することに成功した。イプシロン領域とよばれる小さな体積でシミュレーションを行い、ランダム行列理論を用いて熱力学極限を逆算することにより、カイラル凝縮を高精度で求めることに成功した。研究代表者のアイデアがKEKのスーパーコンピュータを用いたプロジェクト、JLQCDプロジェクトに採用されたため、当初の計画よりも高速のKEKの計算機を用いて研究を遂行することができた。この研究成果は、Physical Review Lettersに掲載、朝日新聞、日経新聞、Nature、CERN Courierなどの記事にもとりあげられた。
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