Grad-Shafranov再現法(以下、GS法)は、その場観測衛星が取得したデータから宇宙空間プラズマ・磁場構造の二次元マップを再現するためのデータ解析手法である。従来の手法は、磁気ベクトルポテンシャルについての、いわゆるGS方程式を解くことにより磁力線の構造を再現するものであり、静的平衡状態にある構造にのみ適用は限られていた。今年度は、磁場ではなく流れ場を再現するために必要な理論的基礎を理想電磁流体力学の枠組みの下で確立し、それに基づいて単一衛星によって得られたプラズマ・磁場観測データから流線の二次元マップを構成する数値計算コードを開発した。新しいGS法の基礎にある仮定は以下のとおりである:(1)構造が平衡状態にある(=時間変化しない)、(2)構造は二次元である(=ある方向z軸沿いの空間勾配はない)、(3)磁場はz軸成分のみをもつ。まず開発した計算コードに、流れ関数についてのGS方程式の厳密解を入力することにより、期待どおりの結果が得られることを確認した。次に、上の仮定(1)が破れた場合に対するGS法の適用範囲を調べるために、ケルビン・ヘルムホルツ不安定の二次元電磁流体(MHD)シミュレーションの結果を用いた。その結果、地球磁気圏わき腹での不安定成長中に予測される程度の時間変動が存在していても、GS法はもっともらしい流線マップを出力することが明らかになった。さらにGS法を磁気圏わき腹で得られたGeotail衛星の観測データに適用した。その結果、観測時間帯の磁気圏境界層に沿ってプラズマの渦がいくつも存在し、それらの渦が反太陽方向へと移動していることが判明した。その渦の幅は地球半径程度であることから、渦が磁気圏わき腹のプラズマ混合層の形成に無視できない役割を果たしていることが推察される。
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