研究概要 |
「研究の目的」 本研究では,堆積物に保存された浮遊性藻類を含む単細胞真核生物の"化石DNA"の解析法の確立を目的とし,古海洋環境変動に伴う水塊構造の変化と遺伝的集団の分化の関係を時系列的に追跡することを目標とする.下北沖の海底は溶存酸素濃度が低く有機物の分解が遅いことから,DNAも分解を免れて堆積物中に保存されている可能性が高い. 「研究の成果」 堆積物柱状試料は,2005年11月14日から12月4日まで「ちきゅう」CK05-04 Leg.2に乗船し取得した.これまでにC9001Aコアから葉理の発達した2層準,C9002A/Bコアから13層準から環境DNAを抽出し,真核生物ユニバーサルプライマーおよび浮遊性藻類特異的なプライマーを用いてPCRを行った.また,得られたDNA断片のうち25cm,825cmの2層準から得られたDNA断片の塩基配列を決定し,分子系統解析を行った. 得られた塩基配列は,Chaetoceros socialisの18S rRNA遺伝子(AY485446)との間に97%の相同性を持つ配列であった.一方,分子系統解析の結果は,得られた配列が高い信頼度(100%)で支持される1つの遺伝的なクラスターにまとまるが,C.socialisのクラスターとは異なる遺伝的なクラスターを形成した. 堆積物コアの表層は,含水率が高い現在の海底面の泥であり,25cmから得られた試料は現生の生物やその遺骸も含まれていると推測できる.一方,現生の生物の影響の少ない825cmでも同様のC.socialisの配列が得られたことは,堆積物内部にもDNAの存在が示唆されるが,2つの層準から得られた配列がほぼ同様であることから,堆積物表層やコア壁面からの汚染の影響の可能性も排除できない.この問題点を克服するとともに,さらに深い深度までの解析を進める.
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