有機アルミニウム化合物が有機合成によく用いられるのに対し、周期表で同族の有機ガリウム化合物はほとんど研究されていなかった。これは、有機ガリウム化合物の反応性が有機アルミニウム化合物に比べ低いと考えられてきたためである。ところで当研究室では、有機ガリウム化合物が特徴的な反応性を示すことを明らかにし、新しい合成反応の開発を行ってきた。私は、有機ガリウム化合物をより効率的に発生する目的でトリアルキルガリウムを有機金属塩基として利用することにした。これによって、C-H結合を直接変換できると考えたためである。あわせて、トリアルキルガリウムの塩基としての特徴も明らかにしたいと考えた。 トリアルキルガリウムがケトンα-位を直接脱プロトンして、ガリウムエノラートを生成できることを見出した。カルボニル付加は全く起こさず、同族のトリエチルアルミニウムよりも効率的な塩基として働く。メチルメチレンおよびメチレンメチンケトンいずれもメチレン炭素側で優先的に脱プロトン化を起こした。さらに、これらが速度論支配のエノラート化であることを確認した。このようなメチレン炭素選択性は、従来のエノラート化剤にはない性質である。なお、調製したガリウムエノラートは酸塩化物やアルデヒドと容易に反応した。トリアルキルガリウムが新しい特徴的なエノラート化剤として働くことを示した。 トリメチルガリウムを用いると、プロパルギルホスホニウム塩からイリドを調製でき、Z-選択的なWittig反応が行えることを見出した。アルカリ金属塩基を用いるWittig反応は、一般にE-オレフィンを優先的に与えるので、トリアルキルガリウムの特徴が表れたことになる。ここで、トリアルキルガリウムとホスホニウム塩を直接作用させても脱プロトン化は起こらない、従って、アルデヒドはトリメチルガリウムに配位して塩基性を向上させる働きがあることがわかった。
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