本研究では、ヘテロ接合体を利用することで異種物質間の界面において電荷移動を誘起させることを狙い、電子の移動だけでなく、プロトンの移動も誘起させ、界面内のプロトン伝導のキャリアー濃度や活性化エネルギーをバルクと異なる状態にすることで、界面内のプロトン伝導性を向上させることを試みた。本年度は、有機系のプロトン伝導体(アミド重合体)を無機系基板上(SiO_2、Al_2O_3基板またはPt薄膜上)に数十から数百ナノメートルの薄膜にすると、固体高分子形燃料電池にとって重要なプロトン伝導性がバルク体と比較して3〜10倍向上することを見出した。また、得られた重合体内に絶縁体ナノ粒子を分散させることでプロトン伝導性が向上することがわかり、ナノ粒子界面から10ナノメートル程度までの距離に、バルクのプロトン伝導性よりも数十倍も高い高プロトン伝導領域が存在することが示唆された。このプロトン伝導性向上のメカニズムは得られた成果をもとに考察すると、界面近傍でのプロトン伝導のキャリアー生成と薄膜化による活性化エネルギーの低下が示唆された。固体電解質開発には伝導性を向上させると機械的特性や化学的安定性を失うといったトレードオフ関係が知られている。このため高出力かつ高信頼性の固体高分子形燃料電池を作製することは容易なことではない。本研究成果は、高い機械的特性や化学的安定性を有しながらも低いプロトン伝導性であったために、固体高分子形燃料電池の電解質として実用化できなかった固体電解質を実用化レベルの電解質膜にすることができる可能性を秘めており、長年にわたる固体電解質開発におけるトレードオフ問題を解決できる可能性を示すことができた。
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