天然多糖であるカードランは、水溶性が低く機能化に不利であった。本研究では、クリックケミストリーを利用することでカードランに対して位置選択的に官能基を導入し、水溶性を向上させることを目指した。検討の結果、四級アンモニウム基を導入することによって、水溶性を大きく向上できることが明らかになった。カードランやシゾフィランなどのβ1→3グルカンは、水溶液中で強固な三重らせん構造をとることが知られている。一方、今回合成した四級アンモニウム基修飾カードランは、水溶液中で一本鎖状態であることがORD測定の結果などから示唆された。そこで、種々のゲスト分子認識挙動に関して詳細に検討した。その結果、四級アンモニウム基修飾カードランは、シゾフィランと複合化することが明らかにされているゲストン分子であるホモ核酸、単層カーボンナノチューブ(SWNT)、オリゴシラン、ポリアニリンなどを認識することが明らかになった。また、興味深いことに、その認識挙動はシゾフィランとは異なり、室温下水中で速やかに進行することが明らかになった。シゾフィランは水中で強固な三重らせん構造を形成しているためゲスト分子を認識するためにはDMSOやNaOHなどにより一本鎖状態へと変換する必要がある。しかし、四級アンモニウム基修飾カードランは水中で既に一本鎖状態であり、このため疎水性部位を持つゲスト分子と混合するのみで複合体を形成したと考えられる。また、シゾフィランでは認識することのできなかったヘテロシークエンスのオリゴ核酸とも複合体を形成し、細胞に効率的に導入できることを明らかにした。
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