地域の気候特性を考慮した建築・都市デザインへの伝統的緑化デザインの応用に向け、その環境調節効果と景観特性の把握を目的として実測調査等を行い、以下のような成果を得た。 連続的に配置された屋敷林が集落気候形成に及ぼす影響を把握するため、茨城県つくば市洞下集落を対象とした気候観測調査を行った。その結果、寒冷な季節風である筑波おろしが吹く時、連続した屋敷林による防風効果が明確に現れ、集落内部の風速は集落外部の約45%に低減されることを明らかにした。また、冬季において、連続した屋敷林を分断する道路が風の道として働き、集落内部へと季節風が進入することにより低温域が形成される。そして、風速の弱い夜間及び早朝には、集落にヒートアイランドが形成されることを示した。 1960年代以降における屋敷林景観の変遷を明らかにするため、茨城県つくば市洞下集落及び上菅間集落を対象とし、空中写真を用いて屋敷林面積の変遷を調査した。その結果、両集落での屋敷林の面積は40年間で約35%減少したことが明らかとなった。また、屋敷林の減少には集落内における地域差が顕著にみられ、季節風に対して風下となる地域では屋敷林の減少率が高いことを示した。 茨城県南地域において「イキグネ」「イグネ」等と呼ばれる伝統的な生垣景観について、樹種、形態、配置等の実測調査を行った。その結果、気候、地形等の地理的条件や、防風、防火等の生垣に求められる役割に応じて、生垣景観の特性が現れることを示した。また、茨城県石岡市大増集落におけるイキグネを対象とした温熱環境実測を行い、イキグネによる日射遮蔽効果とそれに伴う気温、壁面温度等への影響を把握し、伝統的な生垣による暑熱環境を緩和する効果が期待できることを明らかにした。
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