本年度は、前年度に見出したグラフォエピタキシーによる有機半導体薄膜の面内配向制御技術を実際の電界効果トランジスタ(FET)に応用する試みを行った。有機半導体材料にはα-sexithiophene(6T)を用い、電子線リソグラフィーによって人工周期溝構造を形成した熱酸化シリコン基板表面に6Tを真空蒸着法によって成膜した。蒸着前に基板表面をUV/オゾン処理(親水化)ならびにHMDS処理(疎水化)して表面状態を変えることにより、6Tの結晶格子のb軸が人工溝に対して平行になる場合と垂直になる場合を作り分ける、すなわち面内配向を制御し、それによって面内の選択配向方位が90°異なる2種類のFETデバイスを作製した。グラフォエピタキシーによって面内配向制御した6TのFETデバイスはどちらも高ドレイン電圧において飽和領域が現れる一般的な出力特性を示し、このようにして作製した有機FETが正常に動作することを実証した。しかしながら、平坦基板を用いた6TのFET(薄膜の面内方位はランダム)のFET特性と比較すると移動度が小さく、これはグラフォエピタキシャル成長した薄膜ではグレインが存在しない未被覆の部分が多く、電気伝導経路の連結性が悪いためであることが判明した。これに対し、グラフォエピタキシーによって方位が揃って連結した6Tグレインの1次元鎖中の電気伝導特性を導電性カンチレバーを用いた接触型原子間力顕微鏡で測定したところ、鎖状連結構造中では伝導特性が良好であった。これは方位の揃ったグレイン間の粒界抵抗が小さいことを意味する。したがって、グラフォエピタキシャル成長した薄膜の基板被覆率を高め、それぞれ孤立してしまう傾向にあるグレイン連結構造同士を更に連結できれば、FET特性を改善できることが示唆された。
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