SiCは高熱伝導率・絶縁破壊電圧を有しており、パワー半導体デバイス等への応用が期待されている。従来SiC結晶は2000K以上の高温下での気相成長法が行われてきたが、その普及促進には低コスト製造法が不可欠である。本研究では低温(1500K程度)での液相成長法による低コストSiC結晶成長を目標とする。ここでの着眼点は高SiC溶解度を有する溶媒の適用であり、SiへCとの溶解性の高いFeを加えたFe-Si合金溶媒を用いたSiC結晶成長を検討する。 Fe-Si系合金溶媒からのSiC結晶成長において高成長速度を得るためには溶媒が高SiC濃度を有することが望ましいため、Fe-Si-C系状態図、特にSiCの液相面について熱力学的推算を行った。本研究で再評価したSi-C系熱力学データならびにFe-Si、Fe-C系熱力学データを用いて計算状態図を作成した結果、Fe富化Fe-Si融液(〜30at%)にSiC初晶領域が存在することが明らかとなり、同領域の液相は従来SiC液相成長が試みられてきた溶融SiあるいはSi基溶融合金中のSiC溶解度と比較すると、3桁ほど高い溶解度であることから、同系合金はSiC結晶成長用溶媒に好適であることが示唆された。 上記Fe富化Fe-Si融液を用いた温度差法によるSiC結晶成長を試みた結果、グラファイト製の結晶成長用基板上へのSiCの晶出が確認され、金属富化溶媒を用いたSiC結晶成長の可能性を見出した。また溶媒中のSiC溶解度がより大きい場合、あるいは溶媒中温度勾配が大きい場合SiC結晶の分布量、結晶粒サイズともに大きい傾向を示したことから、溶液成長過程では溶媒中溶解度と温度場が重要因子となることが明らかとなった。現時点では用いた基板が多結晶グラファイト製であったため成長結晶は多結晶であるが、今後SiC結晶を成長用基板に用いることでエピタキシャル成長を目指す予定である。
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