研究概要 |
ナノメータスケールで構造制御した半導体薄膜中に閉じ込められた励起子を対象として、100Gb/s〜1Tb/sクラスの超高速光スイッチングデバイスの実現を目標としている。薄膜の膜厚を100nm程度として、励起子を弱く閉じ込めることで、量子井戸構造などよりも非常に大きな非線形光学応答が得られる現象(非局所誘起エネルギー・サイズ二重共鳴効果)に注目している。膜厚110nmのGaAs薄膜を試料として、縮退四光波混合(Degenerate Four Wave Mixing, DFWM)法および過渡回折格子(Transient Grating, TG)法により、閉じ込め励起子の位相緩和および密度緩和を測定することで、光学非線形応答を評価した。 光学非線形応答測定には、パルス幅100フェムト秒程度のパルスレーザーを用いるが、不確定性原理により40meV程度のエネルギー広がりを有する。一方、膜厚が100nm程度の場合、励起子に対する量子閉じ込め効果が小さいために、比較的狭いスペクトル領域に複数の励起子準位が存在する。したがって、閉じ込め励起子系の応答測定にフェムト秒パルスレーザーを用いた場合、複数の励起子準位が励起されることになる。 複数の励起子準位が同時に励起された条件下でのDFWM信号測定では、DF脳信号の減衰時間は、非局所応答により最も光学非線形性が強い量子数が2の閉じ込め励起子によって決定されるが、複数の励起子準位が励起されたことに起因する量子ビートによる振動構造が重畳するため、パルス幅と同程度の超高速応答が出現することが明らかとなった。つまり、複数の励起子準位を励起することで、単一励起子準位の応答とは異なる、新たな光学応答を得られることを示しており、これは、励起子の光学非線形性を利用した、超高速スイッチングデバイスの実現への知見を与えるものと考えられる。
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