UASBプロセスにおける嫌気性バルキングを予防するためには、汚泥が流出するなどの致命的な事態に陥る前に、バルキングの原因となる微生物の増加を検知し対策を講じる必要がある。このような現場レベルでの微生物モニタリングに用いられる微生物群検出技術は、可能な限り簡便かつ迅速に実施可能であることが望ましい。そこで本研究では、RNAを検出の指標とする迅速かつ簡便な新規微生物群検出技術として開発された配列特異的rRNA切断法(RNase H法)の適用を考えた。前年度までに作成した嫌気性廃水処理プロセス微生物群検出用プローブセットを6種類のUASBグラニュール汚泥に適用した結果、メタン生成条件下における有機物分解で重要な役割を担う嫌気性共生細菌や、メタン生成古細菌が検出された。その構成種はリアクターの運転条件により異なり、例えば中温プロセスではMethanosaeta属が6-49%、高温プロセスではMethanosarcina属が40%の割合で検出された。また、嫌気性バルキングが頻繁に見られるリアクターでは、 Chloroflexi門、KSB3門に属する細菌が高い割合で検出された。これらの結果から、本研究で作成したプローブセットは嫌気性廃水処理プロセスの微生物群解析に適用可能であることが示された。今後、本手法を実処理プロセスでの経時的な微生物モニタリングに適用し、その有用性を実証する。 また、バルキング原因微生物の生理学的特徴を明らかにするためにKSB3門の純粋分離を試みた。KSB3門に近縁の16S rRNA遺伝子クローンが糖系廃水を処理するUASBプロセスで頻繁に見られたことから、リアクター内の糖濃度がKSB3門細菌の生育に影響を及ぼしていると考え、培地に各種糖類を加え嫌気培養を実施したが、現在のところ成功に至っていない。今後、基質以外の培養条件も検討していく必要があると考えられる。
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