研究概要 |
本研究の目的は,惑星探査機や月面着陸機などの次世代宇宙ミッションで想定される複雑な熱環境変動に対して,電力を用いることなくパッシブに対応できる「自律熱制御ループシステム」を提案し,「高温時の排熱」と「低温時の保温」を同時に成立させる新しい熱制御技術を確立することである。一年次は主要部となるマルチエバポレータ型ループヒートパイプならびに展開吸放熱パドルの要素研究を中心に行った。 マルチエバポレータ型ループヒートパイプに関してはNASA/GSFCと共同研究を実施し,チタンウィック・アンモニア冷媒およびニッケルウィック・水冷媒からなるマルチエバポレータ型ループヒートパイプの設計ならびに流動特性評価を行った。エバポレータ形状より必要な作動流体封入量と配管容積を明らかにし,予想される毛細管力限界と飽和温度の関係から最適と判断されるリザーバ形状と配管形状を決定し製作を行った。また,毛細管力限界とその重力方向依存性について実験的に明らかにするとともに解析的な整合性評価を行った。さらに,マルチエバポレータの起動特性に関して,これまで明らかになっていなかった蒸発部内部の気液二相状態の分布の違いに伴う特性変化を実験的に明らかにした。並行して,日本においてもループヒートパイプ評価システムを新たに構築し,100W級ループヒートパイプの起動特性と重力依存性ならびにリザーバの加熱冷却による伝熱流動制御(熱コンダクタンス制御)について実験的に検証した。 また,放熱部として,単結晶形状記憶合金,グラファイトシート,ポリイミドフォーム断熱材から構成され,自律的に宇宙空間への排熱量調整を行う可逆展開吸放熱パドルの要素を試作し,恒温槽ならびに宇宙環境を模擬した真空チェンバを用いて吸熱・放熱・保温特性評価を行い,優れた自己排熱調整機能を実証した。
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