研究概要 |
今年度は研究対象である小房子のう菌類のうち,特に1)ササ・タケ類寄生菌,2)ブナ目寄生菌,3)淡水生子のう歯を重点的に収集し,系統を反映した分類体系の再編を目指した.分離培養株について遺伝子解析し分子系統樹を構築した結果,本菌群は当初の予想以上に多様な系統からなり,新規の目・科などに相当する未知の菌群が多数存在していることが示唆された. 現行の菌類分類体系は,主に有性生殖世代の形質から成り立っているため,有性生殖世代が不明確な菌類(不完全菌類)については,分類体系中にほとんど考慮されていない.無性生殖世代が菌類の全ライフサイクルの1部であることからすると,これを無視して体系づけることは明らかに不自然である.本研究では有性・無性両世代の同根関係を明らかにすべく,子のう世代(有性生殖世代)由来の培養菌株から,無性生殖世代の形成誘導を試みた. その結果Piricaudiopsis属,Oncopodium属の子のう世代が確認できた.また,鹿児島県屋久島における調査から,Discosia属やBartalinia属などpestalotioid fungiとよばれる菌群の子のう世代を見いだすことができた.これらの同根関係に関する情報は,従来全く知られていなかったものである.子のう世代がはじめて明らかになったことにより,上記4属の分類学的情報は倍増し,系統学的位置づけが明瞭となりつつある. さらに,無性生殖世代の形態形質がもつ分類学上の意義を検討するため,不完全菌類(おもにクロイトカビとよばれる菌群)の50種について,18Sおよび28SrDNAの分子系統解析を行った.その結果,不完全菌類には定義付けの不正確な「形態属」が,かなり存在することが示唆された.例えば,Bactrodesmium属,Monodictys属,Bactrodesmium属の各属は,3綱にまたがる5〜6系統で構成されているものと考えられた.今後はこれらの「形態属」を整理・再編するとともに,系統を反映する微細な形態的差異を見いだす必要がある.
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