本研究は、タンパク質間相互作用に伴う構造変化を明らかにし、タンパク質間の情報伝達メカニズムの本質に迫ることを目的としている。ATR(Attenuated Total Reflection)-FTIR法を導入することにより、これまで行ってきたタンパク質間相互作用解析を水が十分に存在する条件下にまで発展させる。本年度は、名古屋工業大学・大学院工学研究科・神取研究室に設置されている赤外分光器FTS6000に、SensIR社製ダイヤモンドATR測定装置を組み込み、さらに温度コントロール用のガラスセルを作製し、設置した。試料温度を生理的温度に保ち(0.1度程度の精度)、緩衝液存在下で、水和フィルム試料と遜色ない高精度な赤外差スペクトルを計測することに成功した。また、水和フィルム試料を用いた実験により以下のような知見を得た。(1)13-cis型レチナールを結合したアナベナセンサリーロドプシン(ASR)の初期中間体での構造変化がall-trans型のASRとは異なることを見いだした。(2)ファラオニスフォボロドプシン(ppR)と情報伝達タンパク質pHtrIIの系においては、情報伝達に伴うタンパク質の構造変化(アミドIバンドの強度)が温度依存的に変化することを見いだした。(3)ppRの初期中間体形成に伴うレチナールの構造変化を部位特異的に重水素標識したレチナールを用いることにより明らかにした。(4)ppRのThr204とTyr174の水素結合が情報伝達に必須であることを明らかにした。(5)レプトスファエリアロドプシンの内部プロトン移動反応にAsp150が必須であり、Gluでは置き換えられないことを明らかにした。これらの知見はロドプシンのタンパク質問相互作用についての理解を深めるものであり、ATR-FTIR分光法での対照実験ともなるものである。
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