研究課題
植物では核以外に色素体とミトコンドリアにDNAが存在する。これらのオルガネラゲノムは、多くの作物で片親遣伝(母性遺伝)することが知られている。すなわち、雄性配偶子(精細胞)のオルガネラゲノムは受精により後代へは伝達されず、卵細胞由来のオルガネラDNAのみが遺伝する。母性遣伝を保証する機構として、1.精細胞が形成される過程での精細胞からの色素体の排除2.花粉成熟過程において観察されるオルガネラDNAの分解という現象が観察されているが、その分子機構は不明である。一方、被子植物のうち、約20%の種では色素体ゲノムを両性から遺伝する事が知られている(両性遣伝型植物)。両性運伝型植物と母性遺伝型植物の違いを規定する分子機構に関しても未知である。本研究では上述した母性遺伝現象を支配する分子機構の解明と分子育種への利用に関する基礎研究を行い、以下の成果を得てきている。花粉の栄養細胞においては色素体とミトコンドリアを、精細胞においてはミトコンドリアを緑色蛍光タンパク質により可視化できる形質転換シロイヌナズナを作製し、得られた形質転換体の花粉の蛍光顕微鏡観察ならびに、得られた形質転換体同士の交配によるオルガネラの同時可視化系の構築に成功した。また、オルガネラDNAの分解に異常を示すシロイヌナズナ変異体を単離した。マメ科のモデル植物であるタルウマゴヤシに対して、細胞生物科学的(テクノビット二重染色法)ならびに遺伝学的解析(F1植物におけるRFLP解析)を行い、色素体に関して両性遺伝性を示すことを発見した。今後、これらの研究成果によって得られた研究材料の解析により、母性遺伝現象を支配する分子機構の解明が期待される。
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Journal of Chemical Ecology 32
ページ: 2501-2512