研究概要 |
マウス始原生殖細胞(PGC)は、多能性細胞である原始外胚葉からBlimp1陽性細胞として胎生6.0日胚に出現する。Blimp1陽性PGCは胚体外中胚葉領域にてクラスターを形成した後に、stella,Sox-2,Nanogといった多能性幹細胞特異的遺伝子の発現を開始し、後腸、腸間膜を経て胎生12.5日胚までに生殖巣に到達する。本研究では、Blimp1,stellaの発現制御下でGFPを発現するトランスジェニックマウスを用いて、PGCのクロマチン修飾の変動を免疫蛍光染色法により網羅的に解析した。その結果、形成直後のPGCにおいて、安定的な遺伝子発現の抑制に関わるDNAのメチル化、ヒストンH3Lys-9ジメチル化(H3K9me2)がゲノムワイドに脱メチル化を受け、一方でより可塑的な遺伝子発現の抑制に関わるヒストンH3Lys-27トリメチル化(H3K27me3)は、その直後のPGCで特異的に高メチル化を受けることを明らかにした。またこのようなクロマチン修飾の再編成は、すべてのPGCで同調して起きるのではなく、不均一に誘導されることから、PGCにおけるクロマチン修飾の再編成は周囲の体細胞からのシグナルで誘導されるのではなく、細胞自立的な遺伝子カスケードにより制御されている可能性が示唆された。 次に、H3K9me2,DNAの脱メチル化を制御する分子基盤を解明するために、それぞれのメチル化を制御するメチル化酵素の発現を網羅的に解析したところ、DNAのメチル化酵素であるDnmt3b,H3K9me2のメチル化酵素であるGLPの発現が、脱メチル化直前のPGCで特異的に発現抑制を受けることが明らかとなった。本研究により生殖細胞に内在する全能性再獲得機構の一端が明らかになったと考えられる。
|