平成18年度は「両親種の分布しない地点に生じる雑種胞子体」の例として伊豆半島のシンテンウラボシ(Colysis x shintenensis)に着目して、現地調査と予備的な遺伝子解析を行った。日本産の代表的なイワヒトデ属とその種間雑種について葉緑体rbcL遺伝子の解析を行ったところ、母性遺伝マーカーのみによってもある程度雑種性の検証が可能であることが判明した。そこで伊豆半島で野外調査を行い、両親種からはるかに離れて分布するとされたシンテンウラボシを採集してDNA解析を行った。その結果、シンテンウラボシと(オオイワヒトデ×ヤリノホクリハラン)されてきた植物が、実際にはヒトツバイワヒトデ(イワヒトデ×ヤリノホクリハラン)である可能性が強く示唆された。しかしながら、その場合も片親であるヤリノホクリハランは伊豆半島に産しないため、独立生活の配偶体の関わった雑種形成を示す実験系としてイワヒトデ属が有効であると考えられた。 配偶体フロラの解析に欠かせない配偶体の分子同定技術については、PCR条件の改良などの結果、安定して結果が得られるようになった。伊豆半島で採集した配偶体サンプルの分子同定を予備的に進めたが、平成18年度中にはヤリノホクリハランの独立配偶体の可能性のある配偶体は検出されなかった。一方、予備的に行った国内各地産の配偶体の分子同定の結果、同じ県内には胞子体の分布の記録のない種の配偶体が発見される事例や、個体数が極めて少ない絶滅危惧種の配偶体が検出される例が見出されるという、極めて興味深い結果が得られた。
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