卵巣の周期的変動は障害が生じやすく、獣医畜産領域における重大な疾患のひとつである。本研究は、卵巣局所に発現するゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)と、これにより発現促進されるたんぱく質のアネキシン5(AX5)に着目して、性周期黄体の退行メカニズムを解明することを目的とする。本年度は、1)黄体に発現するGnRH、AX5の性周期中の発現動態と、2)卵巣局所におけるGnRH-AX5系の阻害による黄体退行の変化について追究した。 1)10-13週齢のWistar-Imamichi系雌ラットを実験に供した。発情周期を通して黄体から総RNAを抽出し、リアルタイムPCR法でAX5、GnRH、の転写活性を測定した。その結果、黄体の退行が運命づけられる、発情休止期2日目の1700時に黄体のGnRHおよびAX5 mRNAの増加が観察された。この増加は、プロラクチン投与により黄体を機能化した場合はみられなかった。 2)1)と同様のラットの、発情期午前中の卵巣嚢内に、GnRHアンタゴニストを徐放するオスモティックポンプ(0.3μg/μl/h)を留置し、その後10日間、膣スメアを観察した。その結果、GnRHアンタゴニストが徐放されている5〜7日間にわたって、発情休止期にみられる膣スメア像が観察された。しかし、処置後4日目の血中プロジェステロン濃度を測定したところ、対照群と同程度の低い値であったことから、機能的黄体が形成されているわけではないことが確認された。 以上の結果より、性周期黄体は、時期特異的に機能する卵巣局所のGnRHシグナルによって、周期的な退行が運命付けられる可能性が示された。さらに、黄体が機能化するためには、このGnRH作用の抑制が必要条件であることも示唆された。来年度は、GnRH-AX5系の細胞内メカニズムの解明を、黄体の組織培養などの実験系をもちいて直接的に解明する。
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