研究概要 |
乳腺腫瘍は、犬において発生頻度の高い腫瘍の一つである。ヒトのそれと同様に乳腺組織から発生する良性および悪性腫瘍があり、犬では50%が悪性とされている。ヒトおよびモデル動物の乳腺腫瘍研究では、網羅的な発現解析に加え、標的分子に対して詳細な解析が盛んに行われている。一方、犬の乳腺腫瘍では、特定の癌関連遺伝子およびタンパク質(HER2,p53、BRCA、p63など)の発現変動、ホルモン(プロゲステロン、エストロゲン)の影響に関する解析が主体であり、腫瘍発症に関わる分子機構は未解明な部分が多い。ヒトやモデル動物試料の網羅的な解析は既に多数報告されている中で、犬の乳腺腫瘍に対して網羅的に解析した報告はなく、これら独自の解析データが必要であると考えられる。本助成研究はそれに相当し、腫瘍発症・悪性化に関わる分子機構の解明を目指す基盤研究である。 平成18年度は、犬の乳腺腫瘍の網羅的な遺伝子発現解析を遂行するために材料の収集を行った。乳腺腫瘍材料は、病理組織標本の作製後、WHO分類に準拠し、病理組織診断を行い、解析材料を評価した。それにより、統計解析可能な適切な症例(良性腫瘍、悪性腫瘍および非腫瘍組織を含む)を抽出し、マイクロアレイ解析に向けて材料調整を行った。本助成研究の解析結果は、犬の乳腺腫瘍の発症機構、予後因子の同定および分子標的候補分子の探索へ重要な知見を与えるだけでなく、ヒトの腫瘍への理解やその治療に重要な役割を果たすと考えられる。
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