研究概要 |
現在、我が国では、炎症性腸疾患(IBD)、特に潰瘍性大腸炎を背景に発生する大腸がん(colitic cancer)の増加が問題となってきており、colitic cancerの化学予防に関する研究が切望されている。そこで本研究では、その興味深い生理活性に近年注目が集まっている共役脂肪酸、共役リノレン酸(CLN)の炎症関連発がん抑制効果を当研究室が作出したモデルマウスを用いて検討した。なお、本実験ではCLNの供給源として、9c,11t,13c-CLNを約80%含有するザクロ種子油(PGO)を用いた。実験では雄性ICRマウス(5週齢)にAOM(10mg/kg体重)を腹腔内単回投与し、1週間の休薬後、1%DSSを1週間飲水投与し、炎症を背景とする大腸がんを誘発した。PGOは0.01%、0.1%、1%の濃度でDSS投与終了1週後より17週間混餌投与し、実験開始後5週および20週時にマウスを犠牲死させ、大腸の病理学的解析を行う計画を立てた。現在14週を経過しているが、5週目における剖検において、いずれの実験群にも体重および肝重量に有意な差は見られなかった。大腸粘膜潰瘍と異形成の発生に関しては、PGO混餌投与による濃度依存的な抑制が観察され、特に1%PGO投与群に潰瘍発生に対する有意(P<0.01)な抑制効果が見られた。さらに、大腸腺腫の発生頻度に関しては、濃度依存性は見られないものの、PGOの抑制効果が観察された。また、大腸腺がんの発生頻度に関しては、AOM/DSS投与群で見られた腺がんの発生(60%)が、1%PGO投与群ではその発生は観察されず、CPOの強い抑制効果が見られた。以上、5週時におけるPGOによる炎症を背景としたマウスの大腸発がん抑制効果から、PGO中のCLNはcolitic cancerに対して強力な化学予防効果を有していることが予想され、20週時における解析でその効果の確認を行い、抑制機構の詳細な解析を実施する。
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