研究概要 |
本年度はまず,品種間差異に着目しながら,水田において生育している状態の「インタクト穂」と,穂首直下で水切りして生花用吸水スポンジに挿した「切り穂」とを比較することにより,穂の水分消費特性を解明しようとした.異なる生態型に属し形態的に極めて特徴的な変異をもつ18品種のイネを,農業環境技術研究所精密水田(茨城県つくば市)において圃場条件下で湛水栽培した.各品種の出穂日より,穂蒸散コンダクタンスを定常型ポロメータ(LI-1600,Li-Cor Inc.)に不規則形状葉用キュベット(1600-07,Li-Cor Inc.)を装着して開花時刻頃(昼前),昼過ぎ,夕方〜夜の3時間帯に調査した. 開花期におけるインタクト穂の蒸散コンダクタンスには,0.2cm s^<-1>から0.6cm s^<-1>に及ぶ幅広い品種間差異が認められた.切り穂は吸水スポンジから十分な水供給を受けることから,その蒸散コンダクタンスは主に穎花表面の性質により規定されると想定した.一部の品種では日中にインタクト穂の穂蒸散コンダクタンスが切り穂を下回ったことから,穂首より下の部位における水輸送の制限や競合に起因した穂の水不足が生じている可能性が高いと考えられた.一方,多くの品種で夕方〜夜において,インタクト穂の蒸散コンダクタンスが切り穂のそれを上回ったことから,インタクト穂が何らかの陽圧,おそらくは根圧を受けていると示唆された.すなわち,穂の蒸散コンダクタンスは穎花表面の性質のみでは必ずしも決定されておらず,穂蒸散のモデル化を進めるにあたっては植物体内での水分配の影響について更なる検討が必要であると考えられた. また,ポット試験により,穂肥およびケイ酸の施用が穂の水分消費特性に及ぼす影響を調査した.穂蒸散コンダクタンスは窒素追肥により増大し,ケイ酸施用により低下したことから,穂蒸散コンダクタンスを耕種的に操作できる可能性が認められた.
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