研究概要 |
本年度は、穂蒸散コンダクタンスに及ぼす体内水分分配の影響を明らかにすることを目的として、農業環境技術研究所内水田において水稲6品種を供試し、出穂直前にワックス系蒸散抑制剤を葉面に散布して葉面からの蒸散を抑制する処理(葉蒸散抑制処理)と、生育期間を通じて田面水および土壌を2℃温暖化させる処理(根圏温暖化処理)を行った。その結果、いずれの処理によっても、開花日のインタクトな穂の蒸散コンダクタンスに変化は認められず、葉身および根系と穂との間の水分需給の変化は穂蒸散コンダクタンスにほとんど影響しないことが明らかとなった。 また、Rice-FACE(Free-Air CO_2 Enrichment;開放系大気CO_2増加)実験サイト(岩手県岩手郡雫石町)においてあきたこまちを供試し,高CO_2濃度による葉身気孔開度の減少が開花日の穂蒸散コンダクタンスに及ぼす影響を調査した。葉身気孔開度の減少により穂の水分欠乏が緩和されることを想定したが、実際には高CO_2濃度区で午後にインタクトな穂の蒸散コンダクタンスが低下する結果を得た。一方、穂首直下で切断して水差しにした穂の蒸散コンダクタンスには高CO_2濃度処理による影響は認められなかった。これらのことから、高CO_2濃度処理により植物体の水需要が低下した状態で生育期間の大部分を過ごしたことにより、穂首節間以下の道管における通水機能が低下した可能性が示唆された。 以上と昨年度に得られた結果を総合すると、穂蒸散コンダクタンスの決定機構において、体内水分の再配置は穂蒸散コンダクタンスにほとんど影響を及ぼさず、穂表面の性状と穂首節間の通水機能が支配的であることが明らかとなった。また、出穂に至るまでの長期間に亘る体内水分状態は、穂首節間以下の通水機能の変化を通じて、穂蒸散コンダクタンスに影響を及ぼす可能性が示唆された。
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