本研究の目的は、R257H変異型PLC-δ1を冠動脈に過剰発現させたトランスジェニックマウスのホモ接合体を作製し、組織学的ならびに病態生理学的解析を行い、冠攣縮性狭心症の動物疾患モデルを確立し、さらに血管トーヌス機能解析を行うことにより、臨床に即した冠攣縮のメカニズムをin vivoの実験系において明らかにすることである。 作製されたホモマウス(16週令)から心臓、大脳、肺、肝臓、胃、膵臓、脾臓、骨格筋、脂肪、腎臓を摘出し、臓器重量を測定した。野生型マウスと比較して各臓器重量に有意差を認めなかった。ホモマウスでは心臓肥大の所見も認めなかった。さらに摘出した各臓器・組織からキットにてmRNAを抽出し、ヒトR257H変異型PLC-δ1の遺伝子発現量をTaqMan Probeを用いたReal time RT-PCR法にて検討した。心臓、骨格筋ならびに胃において、ヒトR257H変異型PLC-δ1の遺伝子発現量は、マウス由来の内在性PLC-δ1と比較して著明に増加していた。一方、腎臓ならびに脂肪では、ヒトR257H変異型PLC-δ1の遺伝子発現量はマウス由来の内在性PLC-δ1と同程度であった。さらに作製されたホモのマウス(16週令)において、Tail-Cuff Systemを用いて非観血的血圧ならびに心拍測定を行った。ホモマウスと野生型マウスでは血圧ならびに心拍数に有意差を認めなかった(n=3)。 以上の所見から、本研究に用いられているトランスジェニックマウスは、特定の臓器、特に平滑筋の豊富な臓器においてヒトR257H変異型PLC-δ1の遺伝子が著明に多く発現しており、しかも生理的条件下ではそれらは血圧や心拍数に影響を与えないことが示唆された。今後は組織学的ならびに生理学的検討を更にすすめると同時に血管トーヌスの機能解析を行っていく予定である。
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