研究概要 |
作製されたホモマウス(16週齢)の心臓ならびに骨格筋において,ヒトR257H変異型PLC-_1の蛋白発現量は,野生型マウスと比較してそれぞれ1.19倍ならびに1.43倍に増加していた。腎臓や脂肪組織では蛋白発現量の増加を認めなかった。これは,前年度の研究実績である心臓ならびに骨格筋におけるヒトR257H変異型PLC-_1の遺伝子発現量増加の所見と一致する。 次にヘテロマウスにおいて冠攣縮の誘発を行うため,体表面心電図モニター下に大腿静脈からエルゴノビン(約50mg/kg)を投与し心電図変化の有無を検討した。ヘテロマウス13匹(♂7匹,♀6匹)中,7匹(♂3匹,♀4匹)においてST-T変化を認めた。野生型マウス10匹(♂5匹,♀5匹)では,4匹(♂3匹,♀1匹)において,ST-T変化を認めた。いずれのマウスにおいても,薬剤投与によりST部分が上昇し突然死するケースはなかった。ホモマウスではさらに著名なST-T変化を生じる可能性があり,現在はホモマウスを対象として実験を行っている。 さらに冠動脈の収縮能を評価するため,ホモマウスの心臓から顕微鏡下に冠細小動脈を摘出し,その両端にマイクロピペットを挿入,結紮し,血管内径の変化をVideomicroscopeにより観察した。アセチルコリン10^<-5>M投与にて,基礎値と比較し7.55%の血管収縮を認めた。さらに検体数を増やし,実験を継続している。 以上の所見から,本研究に用いられているトランスジェニックマウスは,平滑筋の豊富な臓器においてヒトR257H変異型PLC-_1の遺伝子ならびに蛋白質が多く発現しており,そのホモマウスの冠動脈は,冠攣縮性狭心症患者と同様に,薬剤により心電図のST変化を引き起こすような血管収縮反応を惹起する可能性が示唆された。さらに本知見を確実なものとするために今後も実験を継続していく予定である。
|