研究概要 |
Gタンパク質共役型受容体(GPCR)のシグナル伝達は,主に三量体Gタンパク質の活性化を通じて行われる.しかし近年,GPCRのカルボキシル(C)末端に会合する細胞内タンパク質によって,GPCR活性が調節されることが報告されてきている.これまで私は,副甲状腺ホルモン(PTH)受容体やトロンボキサンA_2(TXA_2)受容体βアイソフォーム(TPβ)のC末端に会合する細胞内タンパク質とし,Tctex-1(t-complex testis expressed-1)がそれぞれの受容体に会合することを見出している.Tctex-1は微小管に沿った物質輸送に関わる細胞質ダイニン複合体の一種であり,これまでに私は,PTH受容体の細胞内内在化に関与することを報告している.そこで本研究では,Tctex-1がPTH受容体およびTXA_2受容体のシグナル伝達に与える影響について検討した. 私は既に,Tctex-1と会合することの出来ないPTH受容体変異体(PTHR-KRVS)を作製している,HEK293細胞に野生型PTH受容体(PTHR-WT)およびPTHR-KRVSを発現させ,extracellular signal-regulated kinase(ERK)1/2リン酸化の時間依存性を検討したが,顕著な差異は見出されていない.なお,HEK293細胞にはTctex-1が発現していることを,RT-PCR法およびウェスタン・プロッティングによって見出している. 一方,TXA_2受容体のシグナル伝達に対するTctex-1の影響を検討するため,まず,TPβともう一つのTXA_2受容体アイソフォームであるTPαとをそれぞれ安定に発現したCHO細胞を作製した.そして,TPαとTPβを介するERK1/2リン酸化の時間依存性を比較検討した,その結果,短時間刺激時にTPβの方が急速なERK1/2リン酸化を引き起こすことが示された.またTPαおよびTPβのERK1/2リン酸化に対し,受容体の細胞内内在化を阻害するmonodansyl cadaverineを前処理したところ,TPβを介するERK1/2リン酸化のみ顕著に抑制された.
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