本研究の目的は、インスリン分泌に及ぼす組織間の情報ネットワークの解明を目指すことである。 1.遺伝子導入ベクターの作製 インスリンシグナル関連遺伝子を組み込んだ組み換えアデノウィルスの作製の作成を行った。マウスに対してこのアデノウィルスを静脈注射して、肝臓において目的の遺伝子が過剰発現されていることを確認した。 2.肝臓、脂肪組織への遺伝子導入 1で作製したアデノウィルスを用いて、マウスの肝臓に後天的に遺伝子導入を行った。 3.肝臓への遺伝子導入による、膵ランゲルハンス島に対する影響の解析 遺伝子導入3日目に糖負荷試験を施行したところ、遺伝子導入マウスではコントロールのマウスと比較して負荷後血糖が有意な低値を示した。同時に測定した血清インスリン値は、遺伝子導入マウスにおいて糖負荷後15分値で著明な増加を認めた。インスリン感受性試験では、両群間で有意な差は認めなかったことから、遺伝子導入マウスでは、糖反応性のインスリン分泌が亢進し、その結果、耐糖能が改善していることが示された。 また遺伝子導入マウスにおける膵インスリン含量を測定したところ、遺伝子導入後16日目にはコントロールマウスの膵インスリン含量の2倍程度にまで増加していた。そこで組織学的検討を行ったところ、膵島の増大が認められた。さらにBrdU染色にて、遺伝子導入マウスにおいて膵島細胞中のBrdU陽性細胞比率の有意な増加が認められた。このことから遺伝子導入マウスの膵島ではβ細胞の増殖が促進し、その結果膵インスリン含量が増加している可能性が示された。
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