核内受容体は、DNAに結合して下流遺伝子の発現を調節することにより、生物の器官形成・形態形成を制御する。核内受容体のうちレチノイン酸受容体(RAR)は、脊椎動物における骨格形成の主な様式である内軟骨性骨化を制御することが知られているが、その詳細な機構は明らかでない。転写調節因子Zac1は、DNAに直接結合して遺伝子発現を調節するだけではなく、種々の核内受容体に結合し、共役転写因子としてそれらの転写調節能を制御することが知られている。以上のことから我々は、Zac1がRARと相互関係を持ち、レチノイン酸(RA)シグナルを制御することによって、正常な内軟骨性骨化の進行に寄与していると推論し、内軟骨性骨化の過程におけるZac1の機能を検索した。 まず、発生期の肢芽組織におけるZac1遺伝子の詳細な発現パターンを解析したところ、Zac1遺伝子はマウス胚肢芽の軟骨組織において特異的に発現すること、またその発現様式は軟骨基質遺伝子の発現と類似する一方、X型コラーゲンの発現する肥大軟骨細胞層で減少することが明らかになった。さらに、Zac1遺伝子を軟骨細胞に導入して、その機能を解析したところ、培養軟骨細胞におけるZac1の過剰発現は、RAによる軟骨基質遺伝子の発現抑制作用および基質分解酵素促進作用を阻害することが明らかになった。 以上のことより、Zac1は軟骨基質代謝を調節することにより軟骨発生制御に関与すること、およびZac1の発現が軟骨組織の恒常性維持に重要であることが示唆された。
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