歯周疾患を持たない口臭患者の舌苔中に含まれる硫化水素(H_2S)産生菌を検索したところ、Veillonella属が最も多かった。歯周疾患を持たない口臭患者では、これまでよく口臭関連細菌として取り上げられてきたPorphyromonus属やFusobacterium属等の歯周炎関連菌に変わり、Veillonella属が口臭関連細菌であることが示された。しかし、Veillonella属のH_2S産生機構については未だ不明な点が多く、そこで、舌苔中に多く存在する3種のVeillonella属(Veillonella atypica、V. dispar、V. parvula)について、代謝基質と環境pHの影響を検討した。 各Veillonella種標準株を1.8%の乳酸Naを含むtryptone-yeast extract培地で嫌気培養した後、菌懸濁夜を調整した。そこへcysteine、methionine、glutathione、tryptone、フィルター滅菌した唾液上清あるいはオートクレープ滅菌した唾液沈渣を加え、37℃、pH7で3時間インキュベートし、産生したH_2Sをメチレンブルー法で定量した。また、反応pHを8、7、6及び5と変えた際のH_2S産生能を検討した。3菌種とも、cysteine(22±1 μM;3菌種平均H_2S産生量)、glutathione(3±O μM)、唾液上清(14±3μM)からH_2Sを産生したが、methionineと唾液沈渣からは産生しなかった。また、V. atypicaとV. parvulaはtryptone(50±29μM)からH_2Sを産生した。さらに、各基質からのH_2S産生量はpHによって異なり、cysteineはpH6-7で、glutathioneはpH8で、tryptoneはpH7で高かった。これらより、口腔Veillonellaは唾液などを利用して口臭成分H_2Sを産生するが、H_2S産生能は菌種、基質、環境pHによって異なることが明らかになった。
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