脂肪細胞から放出される遊離脂肪酸は、Metabolic Syndrome(MetS)の基盤となるインスリン抵抗性を惹起するが、そのメカニズムは完全には解明されていない。本年は、脂肪細胞におけるeNOSの活性、発現制御機構を中心に脂肪分解における役割について検討した。 3T3-L1前駆脂肪細胞ではeNOS蛋白の発現は認められなかったが、分化誘導因子添加による成熟脂肪細胞への分化に伴い、eNOS蛋白の著明な発現上昇が認められた(7-10日目)。成熟3T3-L1脂肪細胞に対し、イソプロテレノール刺激によりホルモン感受性リパーゼ(HSL)のリン酸化の増強(5-10分)ならびに培養上清中のグリセロール濃度の有意な増加を認めた。同時にAktならびにeNOSのリン酸化の増大(30-60分)を認めた。それらはPI3K阻害薬により抑制された。eNOS阻害薬の前投与によりイソプロテレノールによる脂肪分解は有意に増強した。eNOS siRNAの前投与も同様に脂肪分解を有意に増大させた。L-NIOは、イソプロテレノル刺激によるHSLリン酸化には影響しなかった。sGC阻害薬は、脂肪分解やHSLリン酸化に影響を及ぼさなかったが、N-エチルマレイミドの投与は、脂肪分解を有意に濃度依存的に抑制したことから、S-ニトロシル化蛋白の脂肪分解における関与が示唆された。脂肪細胞におけるeNOS活性化がMetSの新たな治療戦略となる可能性が示唆された。
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