研究概要 |
心臓突然死の主原因である心室頻拍・心室細動に対する最も有効な治療法は,植え込み型除細動器(ICD)であるが,致死性不整脈が繰り返し発生しICDが頻回に作動する,いわゆるElectrical Stormと呼ばれる状態になると死亡率が格段に上昇することが知られている.しかしながら,Electrical Stormの病態,発生機序,及び治療・予防に関する知見は極めて乏しい.Electrical Stormの動物モデルの開発は,その機序を解明し治療・予防法を確立するために有用で,突然死予防に貢献すると考えられる. 本研究では,独自に所有する動物モデルにICDを植え込み,Electrical Stormを呈するモデルと成り得るか否かを検証した.この動物モデルは,完全房室ブロック作成後,両心室肥大と著名なQT延長を呈し,約80%に心室細動が自然発生し突然死する.ICDは頻発する心室頻拍・細動に対し適切作動し,このモデルが臨床症例と類似なElectrical Stormのエピソードを合併した.モデル動物の生存期間は延長したが,ICDの頻回作動に伴い心室電位波高が低下することによって,心室細動感知不全が生じ死に至ることが観察された.また,Calmodulin kinase II阻害剤であるW-7の慢性投与が,Electrical Storm抑制に有効であった.今後,心室細動感知不全の機序について,ICD頻回作動に伴う心機能の変化を評価するとともに,心筋の電気生理学的特性の変化を検討する.また,この動物モデルでの細胞内Ca^<2+>調節機構の変化におけるCalmodulin kinase IIの役割を明らかにし,Electrical Stormの分子標的の同定を試み,不整脈の新しいアップストリーム治療の可能性について追及する.
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