糖尿病性腎症は末期腎不全に至る最大の原疾患であるが、その病態解明は不充分である。ヒト糖尿病性腎症(DN)22例の腎生検組織を糸球体と尿細管間質領域に分け、後者をAffymetrix社のDNA array (HGUA133)により、網羅的遺伝子発現解析を行った。対照は生体腎ドナー(LD)9例、死体腎ドナー1例。統計学的解析により49の遺伝子に有意な発現変動を認めた。このうちVEGF-AとEGFはヒト糖尿病性腎症では、動物モデルとは逆に、発現減少することを見出した。これをさらに15例の膜性腎症、7例の微小変化型ネフローゼで検証し、免疫組織学的に蛋白レベルでの発現減少も確認した。VEGF-Aの強力な制御因子であるHIF発現はVEGFと正相関し、HIFがVEGF-Aの発現に関与してDNの進展に関わることが示唆された。このように網羅的な遺伝子発現により得られる知見は多く、さらに糸球体での解析を進める予定である。本成果は、共著者として米国腎臓学会誌に報告した。 加えて急性腎不全動物モデルのDNAアレイ研究報告を網羅的に文献検索し、その内容を吟味した。4編の論文を抽出し、このうち2編以上の論文で同様に発現増加する48遺伝子、発現減弱する16遺伝子を拾い上げて、これら候補遺伝子についてヒトDNの遺伝子発現プロファイルと比較検討を行った。その結果、候補遺伝子のうち33/48、6/16において同様の遺伝子発現変動をヒトDNで確認し、候補遺伝子発現レベルが臨床的な重症度や予後と相関することを見出した。これらの結果より、ARFモデルでの遺伝子発現と慢性に経過するヒトDNの間に共通機構が存在し、腎機能障害進展に関与する可能性が示唆され、DNを含む広範な進行性腎疾患の治療ターゲットとなりうると期待される。本成果は日本腎臓学会学術集会において筆頭著者として発表、論文投稿準備中である。
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